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外科的矯正治療の必要性
 矯正治療は、歯槽骨内での歯牙の再配列を行うことで不咬合の改善を行っている。骨格的な不調和を伴う不正校合(いわゆる顎変形症)の治療を矯正治療単独で行った場合には、骨格的な不調和を改善することができないため、骨格の不調和を歯牙移動により補正することになる(図1)。

図1 矯正歯科治療単独(上) と 外科的矯正治療の上下顎切歯の移動方向

 症例A(図2)は初診時年齢30歳10ケ月の男性で反対校合を主訴として来院した。初診時診断では、下顎骨の過成長に加えて、骨格的不調和を補うため代償性に発現した上顎前歯の唇側傾斜と、下顎前歯の舌側傾斜を認めました。本症例では、患者さんが顔貌の改善を望まず顎矯正手術を拒否された為、矯正治療単独で治療を行ないました。治療は、上顎右側第三大臼歯と、歯肉退縮が著しい下顎右側中切歯を抜歯し、上顎前歯を唇側傾斜、下顎前歯を舌側傾斜させることにより行ないました。動的治療終了時には前歯のかみ合わせは正常になり、患者さんは満足感を得ており、動的治療終了後12年の45才4ケ月の現在の状態も咬合に大きな変化はなく安定しています。しかし、治療前よりも唇側傾斜が増した上顎前歯や、舌側傾斜が著しくなった下顎前歯のことを考えると、前歯の咬断機能の回復や予後の安定性に大いに疑問が残ります。

図2 症例A 骨格性下顎前突に矯正治療単独で治療した症例

 図3はAmerican Journal of Orthodontics and Dentofacial Orthopedicsの論文に記載された矯正治療中に不慮の死を遂げた患者さん(19才)の頭部]線写真の下顎前歯部と解剖された実際の下顎骨の横断面ですが、下顎前歯部の骨は非常に薄く歯根の露出も認められます。これと症例Aの頭部]線規格写真の下顎前歯部の比較から症例Aの下顎前歯部歯槽骨の状態を考えた時、今後加齢に従い歯周組織が弱体化していく中でいつまで安定し、いつまで前歯を保存できるのか不安が大きいと思われます。  この様に下顎前歯部の歯槽骨は、頬舌的に非常に薄く、この歯槽骨内で歯牙を頬舌的に大きく傾斜させることは非常に困難で、予後が不安なことが推察されます。このようなことから症例Aのような骨格の不調和を歯牙移動により補正する治療が歯牙や、歯周組織の健康という点で多くの問題点を残していると考えられます。
  以上のようなことから、骨格的な不調和が大きな症例に対して、矯正治療単独で治療した場合には、顔貌の改善が行われないだけではなく、咀嚼機能の回復や健全な歯牙、歯周組織の獲得を行う事が不可能なことが明らかであると思われます。従って、骨格的不調和が著しい症例に対しては、その不調和を歯牙移動により代償的に補正するのではなく、骨格の不調和を直接補正する、つまり外科的矯正治療が最も望ましく必要不可欠と考えられます。

図3 矯正治療中に不慮の死を遂げた患者(19才)の頭部X線規格写真の下顎前歯部とその下顎骨
(American Journal of Orthodonics and Dentofacial Orthopedics Volume 110 Number3
September 1996 Pages 242,244 より転記 )